北海道ブラックアウト、泊原発が動いていれば避けられたのか検証してみた
9月6日の北海道の地震で、「泊原発が動いていれば全道ブラックアウトはなかったはずだ」という主張がある。
ただ、どの主張も概念的で、定量的に検証した話をあまり見聞きしない。まあこれは自分が本件について大してアンテナ張ってないからというのもあるけど。
ただ、今のままだと元技術屋として気持ち悪いので自分で検証してみることにした。
状況の整理
地震の発災は9月6日午前3時ごろ。直前の午前2時台の発電実績は286万kWであった。
この時、苫東厚真石炭火力発電所は全機稼働中で165万kWを賄っていた。
原発が止まっている今、ベースロード電力は石炭火力が担っている。高効率で発電するため、おそらくフル稼働状態だったのではないかと思う。
発災時に発電を停止したのは2号機(60万kW)と3号機(70万kW)。1号機(35万kW)はその後17分間頑張ったが需給バランス崩れに耐えられずこれも停止。約57%の供給が失われ、全ての発電所が止まった。
北海道電力では夜間、需要の45%を賄う発電所が突然停止すると確実に全道停電になる
上記の状況から、北海道電力では夜間、130万kWの電力供給が失われると確実に全道停電になることが分かる。これは需要の45%にあたる。
実際の閾値はどうなのだろうか?北海道電力の設備一覧から変動電力を担う水力とガスタービンの総出力を合計すると、179.8万kWであることが分かる。
実際の運用は分らないが、需要の増減に即応できるように全ての水力発電とガスタービン発電が常時50%の出力で運転していると仮定すると、想定外の変動は89.9万kW、夜間電力の31%までの変動をカバーできる計算になる。確かにこれでは130万kWの変動はカバーできない。
あともう一つ、本州との電力の融通を行う連携線の容量が60万kWある。これを入れると想定外の変動は149.9万kW、夜間電力の52.4%までの変動に耐えられるはず、という計算になる。実際には45%で全道ブラックアウトしているのでこの計算は現実から乖離しているとみなしていいだろう。
泊原発が動いていたらどうだったか
さて、「もしも泊原発が動いていたら」という仮定を考えてみる。
泊原発は、1号機と2号機が57.9万kW、3号機が91.2万kWの出力がある。
泊原発と苫東厚真火力がベースロードを担うと仮定、夜間電力を290万kWと仮定して、その50~60%(145~174万kW)をこの2か所で賄う場合、発電所の稼働パターンは以下が想定できる。
1. 泊原発1号機または2号機だけが稼働していた場合
1-a) 原発57.9万kW(需要の20%をカバー)
苫東厚真1,2号機(95万kW)を運転
⇒2号機(60万kW)だけが止まるシナリオなら全道停電は避けられた可能性がある。
⇒1号機も停止したら全電力の32.7%を喪失。理想的な条件(ガスタービン、水力が50%で待機していて即応できる+本州からの即時の受電5.1万kW)なら全道停電は避けられるかもしれない。
1-b) 苫東厚真1,4号機(105万kW)を運転
⇒4号機(70万kW)のみが止まるシナリオなら全道停電は避けられた可能性がある。
⇒1号機も停止したら全電力の36.2%を喪失。理想的な条件(ガスタービン、水力が50%で待機していて即応できる+本州からの即時の受電15.1万kW)なら避けられるかもしれないが、甘すぎる想定の感が否めない。
2. 泊原発3号機だけが稼働していた場合
原発91.2万kW(需要の31%をカバー)
2-a) 苫東厚真2号機のみ稼働
⇒全道停電は避けられた可能性がある。
2-b) 苫東厚真4号機のみ稼働
⇒全道停電は避けられた可能性がある。
3. 泊原発1号、2号が稼働していた場合
原発115.8万kW。(需要の39.9%をカバー)
3-a) 苫東厚真1号機(35万kW)のみ稼働
⇒全道停電回避
3-b) 苫東厚真2号機(60万kW)のみ稼働(合計185.8万kWh、64.1%)
⇒全道停電は避けられた可能性がある。
4. 泊原発1号と3号、あるいは2号と3号が稼働している場合
原発149.1万kW(需要の51.4%をカバー)
⇒苫東厚真は動かす必要がないので全道停電はしない。
結論:泊原発が再稼働していれば今回の地震に限り、全道停電は避けられた可能性がある。
今回の地震に限って言えば、苫東厚真2号機と4号機が地震で同時に故障したことが原因。この点のみに着目すると、
において、全道停電を回避できた可能性が高い。これは北海道電力の電力網が、70万kW(需要の24%)を突然失っても耐えられる、という条件が付く。
机上の空論では、北海道の電力網は、149万kWの急激な負荷変動に耐えられる。実際には135万kWで落ちた。おそらくもっと小さい変動でも落ちるだろう。それが100万kWなのか、70万kWなのかは私にはわからない。北海道電力にはそのあたりを検証していただきたい。
ただし、泊原発を2基稼働させると、原発に震度5以上の揺れが来ると全道停電が発生する。
一方、泊原発を再稼働させた場合、もしも泊原発1号と3号、あるいは2号と3号を同時に稼働させていた場合、泊原発で震度5の揺れが来ると100%全道停電する。
原発は震度5以上の揺れを検知すると緊急停止する。そしてこの2基の組み合わせの発電量は149万kW、今回のブラックアウトを引き起こした130万kWを超えている。
つまり、夜間に震度5の揺れが泊原発を襲うと、確実に全道ブラックアウト、泊原発は外部電源喪失の緊急事態に、自動的に陥る。
北海道の電力網がブラックアウトする閾値は何万kWなのだろうか? 泊原発は1号機と2号機で115.8万kWを出力する。もしも全道ブラックアウトの閾値がこれを下回るようなら、泊原発は絶対に2機以上同時に動かしてはいけない。
全電源喪失のリスクはどうだろうか?
- 地震でその非常用電源も損傷して使えなくなる
- 点検漏れや記録の改ざんなどよくある人的要因で実は使えない状態
- 豪雨や豪雪などの気象災害のため、電源車からの電力の供給が困難、あるいは行えない
など、よく起きる手違いや頻発する気象災害が2つほど重なればそれで全電源喪失のお膳立てが出来上がる。そして震度5の揺れは毎年日本のどこかで何度も発生する。このような状況で全電源喪失の回避は、ほとんど神頼みの領域ではないだろうか。
変電所が震災による火災の被害を受けることも考えられる。外部電源の回復に1か月かかるようなシナリオを追加してもよいだろう。
泊原発では全電源喪失でも耐えられる準備を整えているが、最後の砦まで一気に迫られるような状況は多重防護の原則に反する。地震発生と外部電源喪失が常にセットで、全電源喪失の回避を運に任せるような運用は認めてはならない。
最終結論:泊原発を再稼働させても全道ブラックアウトの可能性は残る。そして、原発が深刻な事態に陥るリスクを抱えることになる。
2基動かすのはハイリスクなので、1基だけ動かすなら大丈夫だろうか? その場合、100万kW前後を石炭火力で賄う必要がある。今回は130万kWの喪失でブラックアウトしたが、100万kWなら大丈夫だろうか? 泊原発3号機の90万kWの突然の停止くらいなら大丈夫だろうか?
そこが分からない限り、「泊原発が動いていれば全道ブラックアウトは避けられた」なんて、軽々しく言うことはできない。そんな主張ははっきり言って考えなしの無責任である。
北海道電力がこの点をしっかりシミュレーション・検証してくれることを期待したい。
このブログ、こんなまじめな話を書くようなスタイルじゃないんだよなー・・・。